
本を書きたい、遺したいという願望はもしかしたら人間の本能の一部ではないかと、最近思うようになりました。たくさんの無名の著者の方々と出会い、それぞれの自分の本を作りたいという情熱に直接触れてきて、それは確信に変わろうとしています。私が幻冬舎ルネッサンスの責任者になって、2年になります。この2年間は私にとっても、自費出版界にとっても激動の時でした。いつか総括しなければならないと考えていましたが、ようやくその時期が来たと思います。
就任当初は、自費出版というものがどういうものなのか全く分からず、今までの編集者としての自分の経験をどう生かせばよいか皆目見当がつきませんでした。何から手を付ければよいのか悩みました。そして、とにかくいろんな人の意見を聞いてみようと思った時、まず最初に読者にいちばん近い書店さん、そうだ、全国の書店さんを回ってみようと決めました。20ヶ所以上回ったでしょうか、そこで初めて自費出版の現状を知ったのです。自費出版への評価は芳しいものではありませんでした。忘れもしません、象徴的だったのがいちばん最初に会ったある地域の大書店の会長さんの言葉でした。「あなたが幻冬舎ルネッサンスをやるのなら、今の大手自費出版社の本を棚から駆逐してほしい」、そう言われました。それは私に対する励ましの言葉と解釈したのですが、私がやろうとしているのも自費出版、一体何が違うのだろう、求められているものは何なのかと、悩みは一層深まるばかりでした。
そんな眠れぬ日々が2ヶ月続きました。今月は5冊、来月も6冊、こんな状態では会社の経営も危うい、ましてや将来の展望など全く見えませんでした。その時ふと頭を過ったのは、『他社はどうやっているのだろう?』という、とても単純な疑問でした。そこで当時業界No1といわれていた新風舎は月に何点くらいの本を出版しているのかと、スタッフの1人に聞いてみました。一時新風舎で仕事をしていて、思うところがあって辞めた者です。その者は事も無げにこういいました。「200点くらいですかね」。その返答に私は「いいかげんなことを言うな! ちゃんと調べてから報告しろ」そう怒りました。数日後、その者がやってきて言いました。「すみません。やっぱり違ってました」。「そうだろう」。「月に230点くらいだそうです」。この一見漫才のように見えるやり取りをした瞬間、はっきりと進むべき道が見えました。そしてあの書店の会長さんの発言の真意がやっと分かったのです。
月々の刊行点数が230点というのは、何かが間違っています。しかしその数を裏付ける資料が昨年発表されました。「出版年鑑2007」です。それによると全出版社別でみる年間の新刊点数のトップが新風舎の2788点、2位が講談社の2013点、3位が文芸社の1468点、4位が学研の1106点、5位が小学館の937点・・・・・・と続きます。ベスト3のうち2社が自費出版の大手です。仮に2788点を12ヶ月で割るとやはり232点。これを土日を除く営業日で割ってみると、1日約10点。驚くべき数字です。本はそんな簡単にできるものではありません。出版とは人の精神を形にするという仕事です。安易な作業ではないのです。本には本になるための重要な過程があります。まだ本として熟成していないものに単にパッケージをつけているのではないか、そんな疑問を抱きました。しかもそれを流通させるという。真っ当な感覚では理解し難い、物理的に不可能な話です。結局、新風舎はあのような不幸な結末を迎えてしまいました。心から自分の本を出したいと思っていた方々のことを考えると胸が痛みます。
これらのことから私が得た結論はいたってシンプルなものでした。それは皆様の思いが籠った本をどこにも負けないクオリティで出版することです。高質なものを出し続ければ必ず幻冬舎ルネッサンスはやっていける、そして自費出版界を変えていける、この2年間、ただそれだけを訴え続けてきました。


